【コラム】シネマレポート『別れかた 暮らしかた 』(藤岡)

オンラインサロン2016・福島 で何度もでてきた、安斎果樹園にあるりんごハウス。友人が関わるNPO法人が、安斎果樹園の跡取り息子の方が出演されているドキュメンタリー映画の上映会をするということで、誘ってもらいました。

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上映は千代田区立日比谷図書文化館にて

「いきることは 別れること。」「別れたもので 人生ができる」

映画別れかた 暮らしかた は、3つの人生の暮らしを記録しています。

三浪して大学をドロップ 自転車でケーキを売る男(31才)。
色んなことから足を洗い ゴミを再生して生きる男(43才)。
震災のあと 自給自足を始めた 果樹園の跡取り息子(36才)、移住した札幌で店を経営する、妻(40才)。

震災から5年の歳月が過ぎました。非常に象徴的な出来事ではありましたが、戦後に築き上げてき たシステムが機能せず大きく崩れ始めるという意味においては、社会はますます「不確実性」にさらされることは間違いないでしょう。

そのような状況において、私たちが愛と勇気を持って人生を歩んでいくためには、どのような「心のもち方」や「行動と選択」が求められるのでしょうか・・・。課題を解決すること(自己実現)も大切ですが、より根本的な私たちの存在そののもの「あり方」 が問われているかも知れません。本映画の3人の数奇であり、また日常的な人生の物語を通じて、そのことについて皆さんと一緒に 考えてみたいと思います。(上映会を主催した NPO法人世界連邦21世紀フォーラムのページより、引用)

自分の中にある核心と向き合うと

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木下さんが不定期に開催するサロン・ド・マリコの入り口

実は、映画を観る2ヶ月前の7月。2014年に安斎果樹園にあるりんごハウスで出会った木下さんが、
今は福島市内から少し離れ、飯坂温泉という場所でまた場作りをされているときいて会いにいってきたばかりでした。

木下さんから、震災の時に感じた率直な気持ち。葛藤、違和感、それに向かう勇気の浮き沈みなど、
当時暮らし続けることがどれほど胸を痛めるものだったのかを、ただただ話を聞かせてもらいました。
それは、当事者でなければ言葉にできない感情の連続ばかり。

映画を観ている最中にも、「いきることは 別れること。」「別れたもので 人生ができる」
この冒頭の言葉が頭に何度も何度も浮かびました。

先行きがみえない不安さに恐ろしくなる。自分ではない誰かの評価を気にする。本当は気にしているのに、気にしていないふりをする・・・

誰しもが、自分の中にある核心的な何かと向き合いたくない。
できれば、目を背けたいと思うことが多い中で、3つの暮らし方が教えてくれたのは、
まぁ、そんな深く考えなくてもいいんじゃない〜?とも言わんばかりの、出演者のくったくのないそれは美しい笑顔と、
その笑顔にたどり着くまでに様々なことと「別れた」であろう過去に、
涙を通り越したような感情が自分の中に湧いて来るようでした。

物をみる「角度」を変える

 

上映会後、監督や出演者によるパネルディスカッションにて、安齋伸也さんがこうお話をされました。

 

「不幸って、誰にもおとずれるものなんだと思います。だけど、それに(不幸に)のまれても仕方ないんですよね。だから、物をみる角度をかえること、なんだと思うんです。」

 

「福島に僕の先祖が入り開墾して果樹園ができた。今僕はそれを札幌でまさにやっているわけです。何か先祖の追体験を、時間や空間を越えてしている感じ。」

 

「農作業って単純なんですよ。農機具もいまいち使えないときだってあるし。ああまたこの繰り返しかぁ、って思って、畑にいてふぅ〜と顔をあげたら、どうしようもなく自然が美しい瞬間に立ち会えることがある。あぁ!やられた!これ最高じゃん!って、そう思うんですよね。」

新しい環境を選んで、すべてゼロからつくりはじめる。
でもそれは実は全く新しいことではなくて、いつかの自分と同じことをしているかもしれない。
物をみる角度を変えるだけで満ち足りる暮らしがおくれるヒントをもらったように思います。

「お〜い、熱すぎない?」

映画の中で今も目に焼き付いているシーンは、安齋伸也さんが家族の入浴のために火を炊き、
湯加減を聞いている様子です。

家族を愛し、思う気持ち。
自分の暮らしを自分でつくるという決意。
過去でもなく未来でもなく、今の瞬間を生きる。

大切な人と何度も何度も観て、語らいたい。ずっと記憶に残るであろう暮らし方を知りました。


 (藤岡)


『別れかた 暮らしかた』
出演:立道嶺央/野原健史/安齋伸也/安齋明子
監督:伊藤菜衣子
撮影:池田秀紀
編集:鈴尾啓太
整音:黄永昌
音楽:青葉市子
音楽録音:zAk
デザイン:長嶋りかこ
制作:暮らしかた冒険家

伊藤菜衣子 監督プロフィール(暮らしかた冒険家/クリエイティブディレクター)
毎年600万人が参加する「100万人のキャンドルナイト」運営とクリエイティブを担当。
広告制作業を生業とする傍ら、暮らしにまつわる常識を見つめ、作り直す冒険中。
代表作に「結婚キャンプ」「弊町家(熊本)」「終わらない自問自答(21_21 DESIGN SIGHT)」など。
「君たちの暮らしはアートだ」と坂本龍一ゲストディレクターに指名を受け、札幌国際芸術祭2014にてに「hey, sapporo」プロジェクトを発表。


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毎年夏至と冬至に東京タワーを始め全国の2万件の施設が消灯、
600万人が参加している「100万人のキャンドルナイト」の運営に2003年から関わってきた。
キャッチコピーは「でんきを消して、スローな夜を。」
その中で、「スローってなんだ」「こんなことで社会は変わるのか?」そんなことをいつも考えてきた。
1年に2回、電気を消すだけじゃ、社会は変わらない。でも、ヒントにはなる。それがわたしの今、思うこと。
さて、彼らの人生にも(自分の選んだ人生にも)、同じような感覚がある。
なんでもいい、あなたの人生のヒントを持ち帰ってもらえたら、嬉しいです。